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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)6366号 判決 1969年1月31日

原告

サラヤ化学工業株式会社

ほか一名

被告

大阪西運送株式会社

ほか一名

主文

一、被告大阪西運送株式会社は原告青野久弥に対し金一五〇、〇〇〇円および右金員に対する昭和四一年一二月八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一、原告サラヤ化学工業株式会社の請求及び原告青野久弥のその余の請求を棄却する。

一、訴訟費用は原告青野久弥と被告大阪西運送株式会社との間においては原告青野久弥に生じた費用を四分しその一を被告大阪西運送株式会社の負担、その余を各自の負担とし、原告青野久弥と被告玉垣求馬の間、原告サラヤ化学工業株式会社と被告らとの間においては、それぞれすべて各原告の負担とする。

一、この判決の第一項は仮りに執行することができる。

一、但し、被告大阪西運送株式会社において原告青野久弥に対し金一〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一原告の申立

被告らは各自原告会社に対し金四二四、三一二円、原告青野に対し金三六八、五二〇円および右各金員に対する昭和四一年一二月八日(訴状送達の翌日)から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

一、本件事故発生

とき 昭和四一年二月二八日午後零時五〇分ごろ

ところ 大阪市此花区伝法大橋上

事故車 大型貨物自動車、トレーラー・トラック(大一か七一〇三号)

運転車 被告玉垣

受傷者 原告青野

態様 原告青野が原告会社所有の自動車マツダキャロル(以下原告車という)を運転して南進中、同方向に進む事故車との間に接触事故が発生した。

二、責任原因

被告玉垣は被告会社に雇用され、本件事故当時被告会社の業務のため事故車を運転中であつた。

第三争点

(原告の主張)

一、本件事故の態様

本件事故は事故車が右寄りに出たため、その右側を走つていた原告車の左側後部附近に接触してこれを巻込み、右側に横転させ、そのまま約二〇数メートル進行したものである。

二、被告玉垣の事故車運転上の過失

本件事故は、被告玉垣が、前側方を充分注視して他車との接触を避け進行すべき注意義務を怠り、漫然右寄りに事故車を進行させた過失にもとづくものである。

三、損害

(一) 本件事故のため、原告青野は、三週間の安静治療を要する脳震盪、鼻骨々折、右側頭部打撲、左上肢、右下肢打撲傷の各傷害を負い、原告車は大破した。これにより原告らの蒙つた損害は次のとおり。

(二) 原告青野

(Ⅰ)療養費

金沢病院 一、五〇〇円

中井病院 二六、〇〇〇円

附添婦費 六、〇二〇円

(Ⅱ) 慰藉料 三〇〇、〇〇〇円

事故以来ノイローゼ状態に陥り、車両に対し極度の恐怖感を抱くに至つている。

(Ⅲ) 弁護士費用 三五、〇〇〇円

(三) 原告会社

(Ⅰ) 営業損失 二〇〇、〇〇〇円

原告青野は原告会社神戸営業所営業課長で、四国四県並びに阪神地区の販売を担当していたが、本件事故以来自動車の運転もできない状態で、その販売成績は著しく低下した。そのため原告会社の受けた営業損失三〇〇、〇〇〇円の内金。

(Ⅱ) 原告車物損 一四四、三一二円

(Ⅲ) 原告車運搬費 一〇、〇〇〇円

事故現場より神戸までの運搬代金。

(Ⅳ) 弁護士費用 七〇、〇〇〇円

着手金・報酬各三五、〇〇〇円。

(被告の主張)

一、被告玉垣の無過失・原告青野の過失

本件事故は事故車が時速三〇ないし三五キロメートルで進行中、原告車がその右側を近接通過しつつ追越そうとして強引に左にハンドルを切り左折して来たため、事故車に接触したものである。事故車のような大型特殊車両では、小さいマツダキャロルの至近通過は発見困難であり、事故は原告青野の原告車運転上の右のような過失にもとづくもので、被告玉垣に過失はなかつた。

二、機構無欠

事故車の構造・機能に欠陥障害はなかつた。

三、過失相殺

原告青野には前記原告車運転上の過失があるから斟酌さるべきである。

第四証拠〔略〕

第五争点に対する判断

一、事故態様、被告玉垣の過失の有無

本件事故は、事故車が進行中、原告車がその右側方約一ないし二メートルのところを通過し事故車の進路前方へ出ようとして、その左後車輪上方扉後部附近が事故車バンバー右側下部にあるウインチ附近に接触し、そのため原告車が横向きに事故車に銜え込まれたようになつたものである。事故車運転者たる被告玉垣は、事故車の運転席が左側にあつたこともあつて、原告車の接近、通過、追越しに全く気づいていなかつた。なお事故発生現場の南行車道は、その幅員約六メートルで二車線になつており、事故車はこの二車線の中心附近にその左車輪を置いて(従つてその車輪―約二メートル半―の大半を右側車線に置いて)走行しており、原告車はこれを追越すため、事故車側方通過に当つてはセンター・ラインを越えて走行していた。(〔証拠略〕)

右認定に反する〔証拠略〕は、いずれも前掲諸証拠に照らしたやすく採用し難い。そうとすると、被告玉垣としては、たとえ運転席が左側にあつたこともあつて、多少バックミラー等によつて視認しえない死角部分はあつたかも知れないにせよ、自動車運転者としては、絶えず前・側・後方への注視を厳にし、かつ、他車両に追いつかれその車両の速度よりもおそい速度で引続き進行しようとする場合に、道路の中央との間にその追いついた車両が通行するのに十分の余地がないときは、できる限り道路の左側端に寄つてこれに進路を譲らなければならない注意義務があるのに、右前・側・後方への注視を怠つたため本件事故発生まで原告車の姿に全く気付くことなく、漫然進行を続けた過失を免れないというべきであるが、ただ本件全証拠によるも、事故車が原告車に追越されるに際して、加速転把等従前の走行状態を変じたと認めるに足るものはなく(この点に関する〔証拠略〕がたやすく採用し難いことは前判示のとおりである、)、却つて前掲諸証拠によると、本件事故発生は、原告車が事故車の側方を通つてその進路前方に進出するに当り、事故車との充分な間隔を保たないで左転把した原告青野の原告車運転上の過失による点が少くないと推認せられるので、してみると仮に被告玉垣が前記の注意義務をすべて尽していたならば、果して本件事故発生を防止し得ていたかは甚だ疑問の存するところであり、結局するに、被告玉垣に本件事故発生の原因たるべき事故車運転上の過失があつたと断ずるには未だ足りないものといわねばならない。尤も他面、被告玉垣が前記注意義務を充分尽していたならば、予じめ原告車の危険な運転を感知して事故発生を未然に防止する措置をとりうる余地もあつたかも知れない疑いも存するから、その点において被告玉垣が全く無過失であつたとも断じ得ないものと言うべく、従つて、被告らは原告らに対し、民法七〇九条ないしは七一五条の責任は負わないけれども、被告会社は原告青野に対する関係では自賠法三条により、同原告の後記損害を賠償する義務を負うというべきである。

二、原告青野の損害

(一)  傷害

原告主張の各傷害(但し治療期間を除く)を受けたと認められる。(〔証拠略〕)

(二)  療養費 計三三、五二〇円

原告主張のとおり認められる。(〔証拠略〕)

(三)  慰藉料 一三〇、〇〇〇円

前期傷害のため約一週間の入院と約二〇日間(実数約一〇回)の通院加療を要した。受傷後二〇日位で出勤したが、約半年間は頭部にしびれ感があり、自動車運転の恐怖感が拭えなかつた(〔証拠略〕)その他本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すると原告青野に対する慰藉料は右額が相当である。

(四)  弁護士費用 三五、〇〇〇円

原告主張のとおり認められる。(〔証拠略〕)

三、原告会社の損害

前判示のとおり認められない。

四、過失相殺

本件事故発生については、原告青野にも前記のような原告者運転上の過失があつたと認められるので、過失相殺として、同原告の前記損害額より四八、五二〇円を差引く。

第六結論

被告会社は原告青野に対し、金一五〇、〇〇〇円および右金員に対する昭和四一年一二月八日(本件不法行為発生以後の日)から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。

訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条九三条仮執行および同免脱の宣言につき同法一九六条を適用する。

(裁判官 西岡宜兄)

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